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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)736号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人本淨直三郎の上告趣意について。

書類の供述者又は作成者を公判で訊問した場合にその訊問の結果による供述を證據として採用するか又は書類の記載そのものを證據にとるかは事実審裁判所の自由心證に任せられているのである。從って原判決が所論聽取書又は始末書の記載を證據にとったからとてこれを非難するのは當らない。從って論旨其の一は理由がない。

次ぎに本件勾留状に理由となっている犯罪を明示していないことは所論のとおりである。しかし勾留状の方式について違法があれば抗告その他法律の定める手續によってこれが是正を求むべきであってこれをもって原判決を攻撃する理由とすることのできないことは既に當裁判所の判例(昭和二三年(れ)第五八二號、同年一一月一〇日大法廷判決參照)とするところであるから本件勾留状に犯罪を明示しない違法があるとしてもこれをもって上告理由とすることはできないのである。又本件記録を精査するも被告人の判示第一事実に對する自白が強制によるものである事実は全部認められないのであって本件勾留状の方式に違法の點があったにしてもそれだけで直に強制のあった事実を肯定できるものではない、又被告人は判示第一事実については終始自白しているのである即ち被告人に對する勾留状は昭和二二年七月一〇日に執行されたのであるが被告人は同月一五日警察官に對し、同月一七日檢事に對していずれも自白しており又同年九月一六日第一審第一回公判においても自白しているのである。從って被告人の原審公判における自白も從前の自白を繰返したもので拘禁と自白との間に因果關係のないことが明白であってかかる自白が憲法第三八條第二項の不當に長く拘禁された後の自白に該らないことは當裁判所の判例とするところである(昭和二二年(れ)第二七一號、昭和二三年六月三〇日大法廷判決)然らば原判決には所論の如き違法なく論旨の其の二も亦理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑訴施行法第二條舊刑訴第四四六條により主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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